tadashiriの日記(仮)

つらそうにしている、人

『玩具修理者』『酔歩する男』素人のブログ書評なんてネタバレあると思って読め

 相変わらず暇なので久々に図書館に行ってきて、そういえば読んでないなと思って小林泰三の『玩具修理者』を読んだんだけど、まあこれが面白かったので、感想を書きます。手元に本があるわけじゃないので、こまかい部分が間違っているということは結構あると思います。

 ところで、僕はわりと忘れっぽいというか、脳がくさってるんじゃないかというところがあり、例えば寝起きに電気をつけようとしてテレビのリモコンを握ったり、明日の天気を見たくてiPhoneのホーム画面を開いたとこで目的を忘れ、なんとなく「何食べよう」とつぶやくことでようやっと目的を思い出して天気のアプリを開いたりとか、そういうことをするんですね。で、何の関係があるかっていうと、そういう、まあ僕はただ脳がくさってるだけなんだけど、『玩具修理者』『酔歩する男』も、脳がくさっていく作品というか、自分がありえないものとつながってしまったり、自分と自分がつながらなくなってしまったりする。

 『玩具修理者』は冒頭からなにかひどく唐突に世界に降ろされたような、説明書もオープニングムービーも読み飛ばしてしまったゲームで遊びはじめる時のような心細さがあり(ちなみにこういう始まり方をして似たような構成をした小林泰三の小説を他にも一遍読んだことがある)、誰なのかよくわからない女(主人公、つまり自分自身がそうであるのと同様に)の体験した出来事の顛末を聞くことになる。その語りの中の風景、人物のなんともいえない嫌な現代日本感というか、近隣住民、子供、肉親にいたるまでどうにも虫か何かのように意思の疎通が難しく思えるようなフィルターのかかった世界観がもうすごい嫌で、それがもうたまらない。その不気味な記憶の中の世界が事件の発生によって、それ以前と地続きの質感を持ったまま尋常ならざるものとなっていくさまが鮮やかだし、”玩具修理者”が登場するシーンが物語上恐怖と安堵の両方に振れていて、なんともいやらしい。結末の理屈っぽいわりにやっぱり自己の連続性が不確かで、そもそものおかしさみたいなものを残したままでいる感じもよかった。

 『酔歩する男』は、カップリングに見せかけてこっちがメインだと思うんだけども、なんともいえない酩酊感がちょっともう、僕の浅い読書体験では前例が浮かばないくらいよかった。主人公とそれに声をかけてきた男、それが「あなた」「わたし」で表記され続けることで、なんだかわからなくなってくるのが、この時期熱中症かと思うような気持ち悪さがある。また固有名詞のいちいち発音の不気味なことであったり、発端となる出来事が起こる時の、「え、そういう話する?」的キチめんどくせえやり取りのつるべ打ち、そこから始まるまさに悪夢のような展開、その悪夢に対してすら登場人物たちが”生活”と表現してしまうことが余計にしんどかったりして、もうとにかくすごいおもしろい。ずっと気持ち悪くて不気味なのに「二人の男が女の子に呼び出された理由を推測して話し合う」シーンがめちゃくちゃバカみたいだったりするのもいい。結末もしんどいだけでなく蠱惑的なところに落としてくる辺りも好み。活字を読んでるとどこまで読んだのかわからなくなったり、よく玄関を施錠せず寝てしまったりする人におすすめ。